today 日本語版 138

寄稿

地中レーダーを用いた線路下探査技術の飛躍的な進歩

保線の分野では、経済性重視の観点から、全ての関連要素やパラメーターを考慮した総合的なアプローチが主流になりつつあります。その際に基盤となるのは、線路の個々の構成要素に関する高分解能データです。そしてそのデータ収集で大きな役割を果たすのが地中レーダーです。

「今やAIは、品質や再現性の面で経験豊富な専門家をしのぐほどです」

ジュゼッペ・スタッコーネ
グラウンドコントロール社(ミュンヘン) 代表取締役

 地中レーダー(Ground Penetrating Radar, GPR)は、今や鉄道の軌道システムと下部構造の探査や品質保証のための標準的な手段として確立しており、その測定データの情報価値は、測定·評価技術の発達により一段と高まっています。人工知能(AI)の活用などは、最近の飛躍的な技術革新の一例です。

 保守作業を効率的に計画し、費用対効果の高い方法で実施するためには、道床と下部構造の状態を正しく、かつ完全に把握する必要があります。地盤調査では何十年もの間、試掘と溝堀りを行う方法しかありませんでした。もちろん、状態を完全に把握するなどは論外でした。1990年代になると、鉄道の地盤調査における地中レーダー探査の適性について、初めて学術研究が行われました。

 地中レーダーを用いる非接触の手法では、電磁波が深さ2.5mまで軌道に浸透し、路床の性質によってさまざまに反射します。反射波の測定データは、いわゆるレーダー記録として残されます。これにより、湿気や汚染の程度、各層の境界面の状態など、さまざまなパラメーターを把握することができます。

 鉄道工事に地中レーダーを取り入れることで、初めて包括的で完全な鉄道軌道の探査が実現しました。この方法は従来手法よりも多くの点で優れていたため、やがて標準的な手法となっていきました。これにより、例えば線路閉鎖をせずに、各線と路線網全体を短時間で一斉に検査することができるようになりました。最新の機械はどのような運搬車両にも搭載可能で、しかも自給自足型システムとしてバッテリーを電源とすることもできます。そのため、保線機械や普通の列車にも搭載できます。実際に負荷のかかった状態での測定を行うことで、情報価値も高まります。

十分に発達した先端技術

 たゆまぬ技術革新は、より迅速で質の高い測定を実現させています。今や最高時速300キロで測定走行ができるのも、高性能の電子機器のおかげです。測定走行では、異なるアンテナ周波数を用いることで、さまざまな深さについての最適な解像度が得られます。特殊なトリガシステムでマクラギ間のみを測定できるため、データの質もさらに向上します。また、ディファレンシャルGPS(DGPS)とドップラーレーダーを組み合わせることで、誤差0.3m以下の測位精度を実現します。

データ評価における大きな進歩

 中でも測定データの評価の分野では、主にコンピューターと解析ソフトの高性能化により、近年さまざまな動きが見られました。まず、デジタルフィルターの開発が大幅に進み、データ質が著しく向上しました。これで以前はわからなかった軌道下の構造を把握し、評価することができるようになりました。それでもつい最近まで、データ解釈の質は専門家の能力に左右されていました。

 近年著しく進歩している技術はほかにもあります。データ評価におけるAIの活用です。これは、機械学習アルゴリズムを用いてレーダー記録の反射パターンを正しく解釈することを、ソフトウエアが学習するというものです。調査を重ねるごとに精度が上がります。評価ソフトの性能はすでにかなり向上しており、品質や再現性の面で経験豊富な専門家をもしのぐほどです。レーダーで得られたデータの自動評価により、可視化や別のデータとの統合も可能です。測定結果は図や電子地図にわかりやすく表示させることができ、データバンクへの入力も簡単です。

ビッグデータ向けの重要なデータ提供機能

 鉄道事業者は、ライフサイクルマネジメントのためにビッグデータを活用することが多くなりました。そのため、機械で評価した地中レーダー探査結果は重要なデータ源といえます。オーストリア連邦鉄道(ÖBB)の軌道線形解析システム「NATAS」は、線路に関する各種データの統合‧解析技術の成功例のひとつです。このシステムでは、特に地中レーダーの活用により、状態変化の早期発見や保守予測の立案‧最適化など簡単に行うことができます。地中レーダーを装備した検測車は、一回の測定走行で軌道の絶対線形だけでなく、道床と下部構造の状態も把握することができます。軌道に関する包括的なデータを一度に収集するという、大きな進歩を遂げたわけです。

多彩な活用法

 地中レーダーの重要性は、今後も高まっていくことが予想されます。予防保守だけでなく、基面防護層の敷設や路盤層の強化などの施工対策の記録にも役立つためです。地中レーダーは、実施した作業の記録用のシステムとしてすでにÖBBに承認されており、鉄道関連工事に携わるスヴィーテルスキ社(Swietelsky AG)の保線機械にも記録の目的で装備されています。

 地中レーダーを用いた手法は、工事の最適化にも活用されています。特に大型の道床交換システムや軌道更新機での作業では、コンクリート片、ケーブル配線、爆発性戦争残存物などの支障物や危険の早期発見により、コストのかかる運転停止や損傷を防ぎ、摩耗を低減することができます。

さらなる応用も視野に

 地中レーダーの応用分野は、今後さらに広がるとみられます。10年後には多くの保線機械に装備されているかもしれません。実際、鉄道の地中レーダー探査に特化しているグラウンドコントロール社(Ground Control Geophysik & Consulting GmbH)は、このほどプラッサー&トイラー社と技術提携をスタートさせました。地中レーダーから得られたライブデータを元に、例えば機械の作業効率を路床の性質に応じて操作し、作業工程を自動化することに成功しています。こうした活用法は、効率性と経済性を最大限に高める可能性を秘めています。測定·解析技術の急速な進歩により、こうしたシステムが実用化されるまで、それほど長くはかからないでしょう。保線における地中レーダーの重要性は、間違いなく高まっていきます。

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