today 日本語版 138
寄稿

オーストリア連邦産業院 貿易局
国際ネットワークプロジェクト(NPI) go-international プロジェクトマネージャー ミヒャエル・ツィンマーマン

世界銀行を利用した効果的な運輸向けソリューション

 世界銀行は開発銀行の母体と位置づけられ、厳密には複数の機関で構成されています。狭義には融資や贈与(無償の資金提供)を行う国際復興開発銀行(IBRD)と国際開発協会(IDA)の総称ですが、民間セクターに対する投資支援(国際金融公社、IFC)、投資保証(多数国間投資保証機関、MIGA)、紛争解決(投資紛争解決国際センター、ICSID)もその業務に含まれています。

 ワシントンD.C.に本部を置き、約130か所の事務所から成るグローバルネットワークを持つ世界銀行は、アフガニスタンからジンバブエまで、世界中で現地と密接につながり、常に借入国と緊密に連携しています。

 世界銀行は、運輸部門で世界最大の開発金融機関であると自負しており、過去10年間に世界93か国で実施された339件の運輸関連プロジェクトに対し、総額490億ドルを提供しました。世界銀行の加盟国が安全かつクリーンで効率的な運輸インフラを構築できるよう、サポートすることを目指しています。

 具体的には、融資や補助金のほか、ノウハウやアドバイスの提供も行っています。特に運輸部門に関しては、年間およそ70件のコンサルティング業務や分析レポート作成業務にあたっています。同部門の脱炭素化に始まり、全ての人のための持続可能なモビリティや地方のモビリティ、また人的資本からジェンダー平等、気候変動に至るまで、幅広い分野をカバーしています。

 その代表的な例は、エクアドルの首都キトでの地下鉄建設という大型プロジェクトです。プロジェクト総額は170億ドル、その約半分が開発銀行から提供されました。

 世界銀行が掲げる開発目標という点では、この地下鉄建設プロジェクトでは気候変動がもたらす悪影響の軽減、人間開発、ソーシャルインクルージョン(社会的包括)が重視されています。

 このほかにも、世界銀行はマルチステークホルダーによる数々のイニシアティブを主導しています。例えば持続可能なモビリティの普及やアフリカ運輸政策プログラムなどです。これにより、異なるステークホルダー間の調整や協力体制が強化されるということです。

 運輸部門に対する支援は、必要とされる資金が高額であるだけでなく、持続可能な開発という意味でも世界銀行の最優先課題とされています。

 オーストリア連邦産業院は、世界銀行、オーストリア財務省、オーストリア交通学会(ÖVG)と協働して鉄道部門向けワークショップを毎年開き、重要な推進力とされる民間セクターとの協議の場を設けています。

アジア開発銀行とともに目指す持続可能な経済成長

 アジア新興国‧地域では、経済成長が進み、都市人口が毎年4400万人ずつ増加しています。そのため、モビリティと運輸面での持続可能なソリューションへの需要が、同地域全体でますます高まっています。アジア開発銀行(ADB)の支援対象国·地域は黒海から太平洋に及び、同行から融資や専門知識の提供を受けることができます。ADBは68の加盟国‧地域で構成され、そのうちの49か国‧地域がアジア‧太平洋域内のメンバーです。それ以外はヨーロッパ諸国、アメリカ、カナダなどが加盟しています。

 資金はその大部分が道路、線路、地下鉄、港湾、自動車といった運輸部門のプロジェクトに投じられています。

 ADBは、持続可能な運輸‧交通インフラの構築を目指しています。中でも安全、都市交通、温室効果ガス排出削減、国境を越えたロジスティクスに重点を置いています。また、持続可能な輸送に向けた数々のパートナーシップを結び、活動を展開させています。例えば国際鉄道連合(UIC)などとの連携です。

 道路‧空港‧鉄道をめぐる運輸関連プロジェクトの資金調達は、公的機関と民間企業を通じて行われます(ノンソブリン)。

 ADBはデータと知識の共有にも携わっています。このほど「アジア交通見通し(ATO)」が発表され、国連が提唱するSDGs(持続可能な開発目標)とパリ協定に基づいた運輸部門の発展が浮き彫りになりました。この報告書は、51か国の400を超える指標を用いながら、運輸‧交通分野における制度的枠組みや国の規制、資金調達についてまとめた貴重な情報源です。

プロジェクト事例

ウズベキスタン(ADB)

 ADBが支援するCAREC回廊第2号の電化プロジェクトの一環として、昨年、プラッサー&トイラー社製マルタイ2台がウズベキスタン鉄道公社(Uzbekistan Temir Yullari, UTY)に納入されました。ほぼ1億8000万ドルにのぼるプロジェクト費用のうち、8000万ドルをADBが提供し、二重内陸国であるウズベキスタンの経済成長と繁栄に大きく貢献しました。

 具体的には、パプ、ナマンガン、アンディジャンの諸都市を145キロに及ぶCAREC回廊第2号で結び、路線を電化するという取り組みでした。CAREC(中央アジア地域経済協力)構想のもと、中央アジア11か国(アフガニスタン、アゼルバイジャン、中国、グルジア、カザフスタン、キルギス、モンゴル、パキスタン、タジキスタン、トルクメニスタン、ウズベキスタン)は経済成長とフェアートレードの促進を目標に、協力体制を強化しています。その際の鍵を握るのが、機能する鉄道インフラです。プラッサー&トイラー社は、高品質の保線機械でこうした動きを積極的にサポートしていきたいと考えています。

中国(IBRD)

2008年に世界銀行が融資を承認した「石鄭鉄道プロジェクト」は、石家荘市と鄭州市を結ぶ355キロの高速鉄道の建設を目的としています。また、建設だけでなく、高速鉄道では非常に重要な保守もプロジェクトの対象です。そこで、プラッサー&トイラー社は2014年から2015年にかけて中国のパートナー企業である九広鉄路公司(KCRC)とコンソーシアムを組み、架線作業車12台を納入しました。

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