today 日本語版 138

ヨーロッパ全土に及ぶ輸送回廊を2050年までに整備

欧州横断運輸ネットワークでつながるヨーロッパ

 ヨーロッパほど国際列車の路線網が密集している地域はありません。しかも絶えず拡張され、新たに路線が接続され、ますます密集し、魅力を高めています。2050年までには、ヨーロッパ諸国を結ぶネットワークが徐々に構築されていく予定です。これがいわゆる欧州横断運輸ネットワーク(TEN-T)計画です。計画は2段階に分けて進められていきます。このネットワークにより、貨物輸送の障害が取り除かれ、長距離の直接接続が可能となり、港湾へのアクセスも改善されるということです。また、旅客輸送に関しては、ヨーロッパのほぼ全土で主要都市間を結ぶ高速列車や夜行列車の接続が良くなる見込みです。歴史的にも世界的にも前例のないプロジェクトです。TEN-Tはヨーロッパ全土に及ぶ鉄道、道路、水路、空路の整備計画で、資金の大半は鉄道輸送に充てられます。プロジェクトの各事業は、すでに実現されているものもあれば、建設中や計画中のものもあります。

2段階の整備計画

 TEN-Tは、TEN-E(エネルギー分野)とeTEN(通信分野)に並ぶヨーロッパ最大のインフラネットワーク構築プロジェクトです。その目的は、既存のボトルネックを解消し、環境面を重視したヨーロッパ全土に及ぶネットワークを構築するために、超国家的、総合的、かつマルチモーダルの輸送計画を実現することです。こうした構想は1990年に生まれ、1996年には法的枠組みが作られ(1692/96/EC)、それ以来くり返し補完されてきました。現在、いわゆる中核ネットワークと呼ばれる9つの回廊を基盤に整備が進められています。2014年には、回廊ごとに欧州コーディネーターが1名ずつ任命されました。EU諸国や鉄道会社などといったステークホルダーの利害を調整する任務を負い、プロジェクトの計画と実施にあたっています。

 プロジェクトの第1段階として、2030年までにこれら9つの回廊内に戦略的価値の高い鉄道網を構築する予定です。これは5万762キロに及ぶ貨物‧高速輸送のための交通網で、最低2つの国境をまたぐヨーロッパ域内の重要なルートを支える役割を果たします。まさにヨーロッパのライフラインです。そして第2段階として、2050年までに地域同士の接続が計画されています。これにより、13万8072キロに及ぶ鉄道路線をはじめ、ほぼ同じ距離の道路、2万3506キロの水路、260か所の空港で構成される交通網が完成することになります(2020年現在)。EU加盟国は、それぞれ資金提供の義務を負います。2014年から2020年にかけて、EUはこのプロジェクトに233億ユーロを投じ、2021年から2027年までには258億ユーロが拠出される予定です。

交通の要所オーストリア

 オーストリアでは前述の中核ネットワークの9回廊のうち4つが通り、そのうちの3つが首都ウィーンで合流します。まず、スカンジナビア~地中海回廊がオーストリア西部チロル州のインタールからブレンナー峠まで通じます。次にチェコ‧ブルノ経由でウィーンを通るバルト海~アドリア海回廊です。このルートはウィーンでドレスデンとアテネを結ぶ回廊に分岐します。また、ザルツブルクとハンガリーを結ぶ西部鉄道がライン~ドナウ回廊上にあり、やはりウィーンを通ります。このように交通の要所であるオーストリアでは、複数の重要な鉄道構造物の建設が進められています。例えばブレンナーベーストンネル、センメリングトンネル、コーラルムトンネルなどが建設中で、西部鉄道やウィーン中央駅、インタール線の近代化工事などは、すでにほぼ完成しています。さらに中核ネットワークには、後から計画が着手された貨物輸送向けの回廊がもうひとつ加わります。ミュンヘン、ベオグラード、トルコを結ぶアルプス~西バルカン回廊で、これについてはすでに趣意書がまとめられています。

三線軌条の「地中海回廊」

 スペインとその近隣諸国にとって、アルプス山脈以南の主要な東西軸である地中海回廊は、非常に重要な意味を持ちます。これはスペイン南端からハンガリー‧ブダペストの先まで通じるもので、フランス、イタリア、スロベニア、クロアチアを経由します。この回廊は、マドリード~サラゴサ間、マルセイユ~ジェノバ間を経由する鉄道路線のほか、トゥールーズ、ラ‧スペツィア、ラヴェンナ、コペル、リエカに向かう支線を含み、ウクライナ方面へ延びています。スペインの鉄道は軌間が広いため、一部の区間は三線軌条(1668mmと1435mm)を敷設する必要があります。また、複数の輸送手段を組み合わせる「インターモダリティ」のコンセプトが取り入れられ、港湾と積み替え拠点、空路、水路、道路との接続が確保されます。この回廊に含まれるルートは合わせて約6000キロに及び、そのうちの3000キロは鉄道です。いくつかの区間は複線となります。マドリード~バルセロナ間とリヨン~マルセイユ間の高速鉄道のほかに、国境をまたいで走るリヨン~トリノ高速鉄道があります。この路線の要となるのは、全長57キロのモン‧スニ‧トンネルです。直近の工事契約は、ちょうど「欧州鉄道年」にあたる2021年の7月に締結されました。

中核ネットワークの回廊

ヨーロッパの最も重要な輸送路を支えるものとして、2030年までに旅客‧貨物輸送のための鉄道網が完成する予定です。貨物輸送の最低条件は時速100キロ、軸重22.5トン、編成の全長740m、高速旅客輸送路線の新設については時速250キロ(改良線は時速200キロ)とし、いずれも標準軌1435mmで電化されていることです。10を数える中核ネットワーク回廊は、将来の「ライフライン」と位置づけられ、さまざまな区間と並行して延びるルートや分岐ルート、また互いにかなり離れた複数の出発地と目的地を含むものとなります。

  1. バルト海~アドリア海回廊
  2. 北海~バルト海回廊
  3. 地中海回廊
  4. オリエント~東地中海回廊
  5. スカンジナビア~地中海回廊
  6. ライン~アルプス回廊
  7. 大西洋回廊
  8. 北海~地中海回廊
  9. ライン~ドナウ回廊
  10. 10.アルプス~西バルカン回廊(2014年より、図示せず)

TEN-T構想の政治的‧戦略的目標

  • EUにおける域内市場の実現と発展、およびEUの経済的‧社会的結束の強化
  • 国内ネットワークの弱点の解消とヨーロッパ辺境地域との接続
  • 運輸部門における温室効果ガス排出量の60%以上の削減、欧州グリーンディールにおいては2050年までに90%削減(1990年比)
  • 2030年までに300キロを超える距離の貨物輸送の30%を道路から他の輸送手段に切り替え、2050年までにはその割合を50%に引き上げる。特に長距離の大量輸送についてこれを適用する
  • 2030年までに既存の高速鉄道網の距離を3倍延長する
  • 2050年までに中距離の旅客輸送の大部分を鉄道に切り替える
  • 2050年までに中核ネットワーク内の全ての空港と港湾を鉄道網に接続する
  • •EU諸国の技術‧運営上の異なる枠組み条件の扱いについて必要な対策を講じる
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