today 日本語版 139

ミリング技術で効果的なレール表面処理を

これからのモビリティと貨物輸送に求められる条件を満たすには、効率的で安全かつ環境にやさしい鉄道システムが必要です。そこで中心的な役割を果たすのが、鉄道システムに欠かせない車両と線路が出会う場所、つまり車輪とレールの接触部です。車輪やレールには最先端の材料が使われていますが、材料の塑性変形、断面形状の変化、き裂(転がり接触疲労)などの損傷の発生は防ぐことができません。それでも軌道を構成するレールの耐用年数を最大限に延ばすには、定期的なメンテナンスが必要です。

リヒャルト・シュトック氏
プラッサー&トイラー社 レール削正グローバル統括責任者

メンテナンス戦略

 レールのメンテナンスを正しく行おうとする場合、インフラ運営事業者にはさまざまな選択肢があります。中でも理想的とされる戦略は予防保全です。これは、レールの耐用年数の面でもコスト面でも最適なソリューションといえます。予防保全を行うと、レールはほとんど損傷のない状態に保たれます。生じつつある表面凹凸や断面形状の変化は、それぞれわずかな削正を行う定期的な措置で解消できるほか、コントロール可能な状態を保つことができます。

 一方、是正保守では変位の規模が中から大に達してしまうことがあります。この戦略ではメンテナンス周期をある程度延ばすことができますが、1回の介入でかなりの量を削正しなければなりません。予防保全に比べると、達成できるレールの耐用年数は短く、結果的にライフサイクルコストは高くなります。

 そうした中、特殊な位置づけにあるのが再生メンテナンスです。この戦略では、レールを初期状態とはほぼ関係なく「新しい状態」にする、つまり再生させます。再生メンテナンスの主な特徴は、全ての表面凹凸を100%解消し、目標とする形状を完全に復元する点です。変位の性質上、他の対策では解決できないものの、レールが摩耗限度に達するまでにはまだ十分な余裕がある場合に特に有効です。再生に成功すれば、レールの残存耐用年数を最大限に延ばすための予防策を(再び)実施できます。早期のレール交換を防ぐことにもなります。

 上記のようなメンテナンス戦略では、適切な測定技術を用いてレールの状態を把握する必要があります。レールの損傷状態(横断面、長手方向の断面、き裂の深さ)がわかって初めて、必要な量の削正を行い、正しく処理できるというわけです。また、測定技術はメンテナンス後のレール状態を記録する役割も果たします(品質管理)。

レール表面処理のためのミリング技術

 従来のグラインディング式レール削正(研削)に加え、過去25年間でミリング技術が世界的に確立されました。これはレール頭部の表面層を削り取る(ドライ切削)技術です。作業で発生する切りくずは高効率の吸引装置で回収され、ミリング式削正車に装備されている貯蔵容器に一時的に保管されます。従来のグラインディングでは金属粉じんが軌道上に均一に分散してしまいますが、ミリングの場合はいわゆる廃棄物を「リサイクル可能な価値ある原料」に変えることができます。また、切削工程で全く火花が散らないため、火災リスクの高い環境でも問題なく使用することができます。切粉や火花が生じないことから、この技術はトンネル内などでの作業に適しています。1パスあたり0.1mm~数mm(機械のサイズによる)の削正を行うことで、深い表面凹凸をすっかり平らにし、目標とするレール断面を完全に復元することができます。仕上がりの形状はカッターのヘッド(回転する切削工具)の形で設定できるため、作業員の介入が少なくてすみます。ミリング式削正では横方向と長手方向の断面形状を正確に復元できるだけでなく、研磨ユニットがセットになっているため、レール表面の粗さと騒音に関する最も厳しい基準をも満たすことができます。レール頭部の表面層をやさしく加工し、レールに高熱が伝わってしまうこともありません。

 こうした特性を持つミリング式削正は、基本的には従来のグラインディングによるレール削正を補完する技術ですが、場面によっては従来の方法の代替手段となりうる、あるいはすでに取って代わってしまっているケースもあります。

アメリカ向けの画期的なミリング技術

 プラッサーアメリカ社は、世界初のタイプのミリング式削正車「Romill Urban 3 E³」をアメリカで稼働させる予定です。この機械はローベル社(ROBEL Bahnbaumaschinen GmbH)とシュベアバウインターナショナル社(Schweerbau International GmbH & Co. KG)が共同開発したものです。都市部向けにコンパクトに設計された特別仕様で、狭いトンネル内にも適しています。ミリング関連の数々の革新的な技術に加え、ハイブリッド駆動コンセプトを初めてレール削正車に搭載した機種です。バッテリー技術により、最大3時間にわたってゼロ排出(粉塵、火花、排ガスなし)の作業が可能です。より長時間稼働するよう、搭載されたディーゼルエンジンが「レンジエクステンダー」と「急速充電ステーション」として機能します。もちろん、外部電力の充電も可能です。

 プラッサーアメリカ社は、このRomill Urban 3 E³を用いて主に都市鉄道(地下鉄、ライトレール、路面電車)を運営するお客様にサービスを提供しますが、大型貨物輸送の分野での使用も想定されています。2022年後半からは、アメリカでRomill Urban 3 E³の運用を開始する予定です。最先端のメンテナンス技術を駆使しながら、レールの長寿命化を持続的に図る狙いです。


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