today 日本語版 136

寄稿

MEAT方式の目指すもの―ヨーロッパにおける公共事業の公平な発注

 EU域内では、鉄道利用による往来が日に日に増えています。ヨーロッパの鉄道産業は、市や地域、EU加盟国向けに質の高いサービスを提供し、完全に相互運用可能な単一の欧州鉄道圏(SERA)を目指しています。そうした中、EU域内での公共事業の受注をめぐり、国の補助を受けながら参入しようとする第三国の企業と競合するケースが絶えません。



寄稿
欧州鉄道産業連合(UNIFE)会長

フィリップ・シトロエン

こうした特異な状況のせいで、入札に参加した外国企業が著しい低価格で受注する場合があります。その結果、低品質の製品が輸入され、ひいてはヨーロッパの鉄道網の質が低下しかねません。公共事業はEU経済の柱のひとつ(EUのGDPの約20%)であり、ヨーロッパの鉄道関連製品メーカーとサプライヤーにとって重要な分野です。それだけに、こうした事態は非常に深刻です。新型コロナウイルス感染拡大による影響はこの数か月でますます拡大し、今後の景気後退が危ぶまれています。欧州の鉄道部門にとって、これ以上取り組むべき課題が増えてしまっては、「欧州グリーンディール」構想の目標達成に必要な次世代技術が生まれにくくなってしまうかもしれません。ただし、解決策がひとつあります。最も経済的に有利な入札選定を行うMEAT方式(Most Economically Advantageous Tender)です。

 MEAT方式は、入札選定の際に一段と包括的な視点から検討することを公共機関に求めようというものです。この方法では、発注者は工費の面だけでなく、技術の活用やライフサイクルコスト、環境・社会への影響といったその他の要素を考慮してオファーを審査することになります。これにより、行政側は公平な競争環境の中でヨーロッパの鉄道産業を強化していくことができます。

 今のところ、革新的で高品質な製品に関する基準は強化されつつありますが、その適用はEU域内の購買市場では義務付けられていません。こうした基準をもっと重視すれば、公共調達は公共事業の発注者にとってヨーロッパ産業の雇用確保の手段となり、また欧州グリーンディール構想を掲げるEUにとってはインテリジェントでサステナブル、かつイノベーティブな技術の利用に向けた原動力となります。ヨーロッパの企業は、自動列車運転装置(ATO)やETCSのレベル3規格、次世代通信システム、衛星測位システムといったさまざまな技術の開発に取り組んでいます。そしてこれらの技術により、世界の鉄道網はますます高効率で環境にやさしく、メンテナンスしやすくなっているのです。このように画期的な状況を生み出してきたのは、ヨーロッパの鉄道に関する研究プロジェクト「Shift2Rail」の共同事業です。欧州委員会のイノベーション・研究・文化・教育・青少年担当委員マリヤ・ガブリエル氏は、官民パートナーシップであるShift2Railプロジェクト(責任者:カルロ・ボルギーニ常任理事)を研究枠組みプログラム「ホライズン・ヨーロッパ」の中で「Shift2Rail 2」として継続すれば、アディナ=イオアナ・バレアン欧州委員が掲げる持続可能な運輸政策を力強く後押しできることでしょう。Shift2Railプロジェクトの継続については現在協議中ですが、これによりヨーロッパで最もクリーンな輸送手段を今後さらに効率的に、そしてまた持続可能にしていくための技術の創造に向けた重要な第一歩を踏み出すことになります。

 UNIFEとそのメンバーも、先に触れた各種基準がますます適用されていくよう働きかけています。2019年7月には、UNIFEは欧州鉄道・インフラ会社共同体(CER)と欧州鉄道インフラ管理者(EIM)と共同で、鉄道分野での発注事業におけるMEAT方式の導入とベストプラクティスの実施に向けた勧告をまとめました。そして近々この共同勧告を鉄道会社の間に広めていく考えです。また、当団体は公共調達の分野でヨーロッパの産業連合「イージス・ヨーロッパ(AEGIS Europe)」がくり広げる活動に賛同しています。この取り組みには、ヨーロッパの上流・下流工程製造業連合のうち22団体が参加しています。こうした協力体制のもと、2019年9月には参加団体で1つの声明文をまとめ、ヨーロッパの公共調達をめぐる法的枠組みを改めるよう求めました。MEAT方式に関する規定を具体化し、国営企業による超低価格のオファーの問題に取り組むためです。

ヨーロッパの鉄道産業界からは、世界の鉄道における環境負荷を軽減し、効率を高める革新的な製品が次々と生まれています。公共事業の発注者が意識を高め、安価な手段を避けるようになれば、こうしたイノベーティブな製品を一段と活用していくことができるはずです。そしてそれが主な環境対策への貢献につながるということも、発注者は認識すべきです。例えば、先に触れた欧州グリーンディール構想が目指す運輸部門での排出量90%削減に一役買うことになるのです。さらに、ヨーロッパの雇用創出にも貢献し、公共資金を有効に活用することになります。私たちは力を合わせれば、鉄道を通じてヨーロッパのグリーンモビリティに明るい未来をもたらすことができるでしょう。

「私たちは力を合わせれば、鉄道を通じてヨーロッパのグリーンモビリティに明るい未来をもたらすことができるでしょう」

ミッション

持続可能なモビリティに向けた鉄道関連市場の発展に貢献

私たちが使命を果たすにあたり、優先すべき課題は4つあります。

  • EUの鉄道政策の推進
  • 相互運用可能な効率的な欧州鉄道システムの構築
  • 進歩的な研究やイノベーション、高品質を活かしたヨーロッパの鉄道産業における主導権の確保
  • UNIFEのメンバーに対する市場戦略・技術・政策関連情報の提供

ブリュッセルに拠点を置く欧州鉄道産業連合(UNIFE)は、1992年以来ヨーロッパの鉄道産業を代表する機関として活動を展開しています。鉄道システムとサブシステム、その関連機械設備の開発・製造・整備・近代化を事業とするヨーロッパの中小企業と大手企業が加盟しており、その数は100社を超えます。UNIFEはヨーロッパ各国の鉄道産業関連団体のうち14団体で構成されており、そのメンバーを合わせるとヨーロッパ市場の84%を占めます。これは世界で提供される鉄道関連機械設備とサービスの46%以上に相当します。UNIFEはヨーロッパ内外でメンバーの利益を代表し、またヨーロッパ内外の鉄道分野でEU製設備の導入とEU基準の適用を積極的に推奨しています。UNIFEのメンバーは、最新技術を提供することで鉄道利用の増加による諸問題に対応し、持続可能で環境にやさしい交通体系の実現を目指しています。

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